シアタージャズライブ出演 ジェントル久保田スペシャルインタビュー
12月5日(木)~10日(火)に、札幌文化芸術劇場hitaruで開催するシアタージャズライブ。12月8日(日)に出演予定のジェントル久保田さんに、サッポロ・シティ・ジャズ2024のスペシャルインタビューを行いました。
ようこそ、いつか映画でみたような
ジャズクラブの世界へ。
スウィングジャズに独自のエンターティメントを盛り込み、多彩な活動を展開しているジェントルフォレストジャズバンド。日本で最も多忙なビッグバンドといわれる彼らが、総勢21人で札幌で初のライブを繰り広げます。リーダーのジェントル久保田に話を聞きました。

庭師を志されたことがあるという、ミュージシャンには異例のプロフィールをおもちですね。
高校では遊びたい放題。卒業後はプータローのような生活をしていました。心配した両親から、知り合いの植木屋さんのところへ住み込みで奉公に出されたのです。お寺や神社の庭をつくるような親方のもと、先輩庭師の仕事を見ながら学びました。最初は木を埋める穴を掘ったり、庭の掃除をしたりという下仕事ばかり。10 年やって一人前の世界ですが、人間関係に行き詰まり、4 年あまりで辞めました。
改めて大学へ入学し、楽器経験なしにビッグバンドサークルへ飛び込んだのはなぜですか。
勉強は大嫌いだったのですが、大学という猶予期間を利用してやりたいことを見つければいいと考え入学しました。ちょうどそのころ忌野清志郎さんの 40 周年記念ライブに出演した東京スカパラダイスオーケストラの演奏を聴いて「あの人かっこいいなあ」と惹かれていたのがトロンボーンの北原雅彦さん。大学のビッグバンドサークルの新入生歓迎ライブを見て「その楽器、やりたい です」とサークルへ入りました。トロンボーンという名前すら知らずに!
名前も知らずに始めたトロンボーンはどうでしたか。
植木屋で働いていたおかげで、道具に触れるとわかるんです。どれほどの技術がなければ使いこなせない道具かということが。トロンボーンは手強いとすぐにわかりました。生半可では大学 4 年で吹けるようにはならないぞと。楽器経験はゼロ、楽譜も読めませんでしたから。そこで自分なりに計画を練りました。植木屋という縦社会で働いていたおかげで、仕事の段取りを組み、こなしていく技術は身についていました。最小限の時間で単位を取れるように大学のカリキュラムを効率的に組み、トロンボーンの練習時間を確保しました。中学や高校から吹奏楽をやってきたようなサークル仲間たちに基礎練習を見られるのは嫌だったから、基礎練習は隠れてやりました。努力が実り、3〜4 年で、楽しんで吹けるレベルには届きました。
中古CD店で見つけた1枚のVディスクがきっかけで、ビッグバンドの魅力に目覚めたそうですね。
カウント・ベイシー、アーティ・ショウ、デューク・エリントンなど有名なビッグバンドばかりを集めた V ディスクでした。めちゃくちゃかっこよくて楽しくて。いつか仲間とこんなバンドをやりたいと思いましたが、プロで食べていくのは無理だろうな、と思い、ある高級眼鏡店に就職しました。その頃、社会に出てからも楽器を続けたい大学時代からの仲間と結成したのがジェントルフォレストジャズバンド。最初は18名でした。バンド名は、ぼくの本名、久保田森の「森」に「ジェントル」をつけたものです。カウント・ベイシーやデューク・エリントンなど、有名なビッグバンド名には、みんな称号がついていますからね(笑)。
1930〜50 年代のアメリカのビッグバンドのようなスウィング感に加え、笑いにあふれるパフォーマンスで、斬新で楽しいエンターティメントを展開しています。こうしたコンセプトはどこから生まれましたか。
バンド結成時、社会人やプロを含めていろいろなバンドを聴きにいきました。ジャズクラブへも通いました。でも何かしっくりこないのです。お客さんは楽しんでいる? いや、そうでもなさそうだ。バンドメンバーのファッションもイマイチだなあ。「ジャズは分かる人にだけ分かればいいんだ」そんな気風も感じていました。「プロはお金をいただくかわりに、お客さまをめちゃくちゃ楽しませなければいけない」というのがぼくの信念。眼鏡店で 7 年、接客業をしていた経験とも関係があるかもしれません。
ジェントルフォレストジャズバンドらしさは、どこから生まれていますか。
めざしている音楽は?
まずジェントルフォレストシスターズの存在が大きい。大学の卒業旅行で行ったパリでみたビッグバンドに女性 3 人のヴォーカルがいて。彼女たちが歌い始めるとステージが一気に輝くんです。「これだ!」と思い、メンバーをヴォーカルレッスンに通わせてステージで披露したところ盛り上がりましてね。当初のメンバーは卒業後に抜けてしまったのですが、音大でジャズヴォーカルを先行していた 3 人を呼び込み、シスターズを結成しました。もうひとつは曲調です。スウィングジャズがいちばんかっこよかった時代の要素を取り入れながら、ぼくらが命を吹き込んだオリジナル曲をつくっています。日本人って、例えばハンバーグやオムライスみたいに、西洋の文化を取り入れて日本オリジナルなものをつくるのが上手ですよね。大切にしているのは、日本人でなければできない、夢のアメリカを想像してつくったような、洋食みたいなスウィングジャズ。クラシカルなところから離れず、でも現代の日本でぼくらがやるとこうなりました。どうぞ楽しんでください、という気持ちです。曲はオリジナルですが、カウント・ベイシーやデューク・エリントンらへのオマージュが散りばめられていて、聴く人が聴けばニヤッとしてしまうような遊びも聴きどころです。
札幌での公演は今回が初めてです。どんなライブにしたいですか。
21人全員で札幌へ行けるのをみんな楽しみにしています。お客さまには、これぞジェントルフォレストジャズバンドの十八番という演出で、ビッグバンドの魅力を存分に味わっていただきたいです。いつか映画でみた、ジャズクラブの世界に入り込んだかのような感覚になっていただきたい。ぼくはトロンボーンと指揮担当ですが、バンドにはぼくよりずっと上手な奏者がいますし、じつはビッグバンドに指揮はあまり必要ないんです。ぼくはバンドの案内人のような役割です。ジャズをあまり見たことが無いお客さんにとっては、ソロパートで誰が演奏しているのかが、なかなか分かりにくかったりすると思います。ぼくは演奏者のあいだを動き回って各パートにスポットライトを当てていきますので、ぼくの動きに注目しながら演奏を聴いていただくと、ライブがいっそう楽しめるはずです。
(インタビュアー:Keiko Maruya)