吉田野乃子×進藤冬華 スタジオスペシャルインタビュー


即興音楽などを取り入れたサックス演奏と作曲を行う吉田野乃子さんと、ピクニックや街歩きツアーを美術表現として取り入れている進藤冬華さんの二人が「フリースタイルピクニック」と題し、音楽と美術のコラボレーションを行います。
進藤さんがコースや食事などを企画するピクニックに二人で行き、その体験をもとに吉田さんが新曲を制作、10月6日のワンドリンクジャズカフェにて初披露します。当日はピクニックの様子も紹介し、音楽&トークでお楽しみいただきます。



事前準備のため吉田さんのスタジオに、進藤さんがお邪魔し、彼女の音楽について、インタビューをしました。


・活動場所について

進藤:吉田さんは、高校卒業後ニューヨークへ渡り、現在は地元の北海道で活動されていますね。

吉田:ニューヨークには10年ほど滞在し、音楽関係のネットワークができました。

今はインターネットもあるので、必ずしもニューヨークにいる必要はないかな、と感じています。人が多すぎて入れ替わりも激しく、全体像が見えないということもありますし、また、ニューヨークは家賃や物価がものすごく高く、生活と音楽の環境維持が大変です。なので、誰かに積極的に進めようとは思いません。

地元だと丁寧に活動できます。戻ってきたのは家庭の事情がきっかけでしたが、そこでしかできない面白い事もある。東京も(家賃や物価が)高いですよね、でも飛行機は安くなっているので、必ずしも都市、中心部に住む必要はないのではないかと思います。

進藤:美術だと大都市と地方の違いを感じることが私はまだあります。音楽の方が身軽なのかもしれない。

吉田:美術の場合は作品を持ち込む必要がありますが、音楽は楽器ひとつ、身ひとつで動けるので身軽だと思います。


・譜面について

吉田:変な楽譜をワークショップでも見せたりします。大学で特別講師枠でやったこともあります。(手書きの楽譜を見せながら)例えばこの曲だとこの部分だけ決まっていて、ここはモチーフ、あとは共演者によって決めます。ここにパンクと書いているのはパンクの人とやったのかもしれません。ロックの人なら、ロックのリフとか。

進藤:指示書に近いのかも…美術でも指示書を元に繰り返し同じ作品を制作することはありますね。インスタレーションやパフォーマンスなど。

吉田;なるほど、あとは…

(様々な楽譜を見せてもらう)

この曲は「全力疾走」といって、この部分では全力でノイズをやらなければいけないんです。

(CDを探しにいく)

吉田:こんなのです。(音楽をかける)

進藤:ぐちゃぐちゃだけど、ぐちゃぐちゃじゃないというか。

吉田:この楽譜はカードになっていて、カードをシャッフルして渡す。

同じメンバーでも毎回違う曲ができます。これはハンドサイン。1番を出すと長い音とか。

進藤:ドローイングみたいですね。

吉田:図形楽譜といいます。(いろいろ事例を出しながら)こういうのを混ぜながら作曲しています。

進藤:同じフレーズが何回も出る、そこから外れるみたいなことが一つの曲の中で起こりますが、同じことを繰り返すというのはどういうことでしょうか。

吉田:流れてしまうので印象付けというか、意味を持たせるという事もります。ティッシュを丸めたものが1つあってもゴミだが、それが何個も並んでいると意味ができる。ノイズも繰り返すと意味をもつというか。繰り返さないものもありますが。

進藤:他人のスコアが気になる事はありますか?

吉田:結構気になりますね。聞かれることもあります。難しいことやってそうで意外とぐちゃぐちゃだったり。

進藤:CDにするのとライブでは全く違いますよね。再現性というのはどのように考えますか?

吉田:再現性という意味では、このように最後まで書いたものは何度やっても再現はできますが、面白くない。完全に再現したいならCDを聴けばよいと思います。ライブに来てくれた人たちにその場でしかできないことをやる事を考えます。ジャズを始めたきっかけもその時の気分、好きなことをやってよいというところから。ただ、やっているうちにジャズにもある程度型があることがわかり、自分でつくるようになりました。

メロディーもリズムも好きなのでぐちゃぐちゃだけがやりたいわけではないんです。


・サックスについて

進藤:私は音楽あんまり知らないんですけど、サックスってちょっとエロチックなイメージがあります。アニメや映画でセクシーな女性が登場するシーンとか…どうですか?

吉田:いろいろできる楽器ですが、昔からこういう音楽を聴いていたので…あまり影響はないかな…

進藤:楽器は体と密接なところも面白いと思っています。以前、書道家の方に会ったときに筆は体の延長という感覚があると聞きました。

吉田:ボーカルを参考にしたことはあります。声を出しながら吹いたり。実際の呼吸を使う分感情を出しやすいのかもしれない。ただ、弦楽器でもうまい人は歌うように弾くんですよ。

進藤:ほかの楽器ではどうですか?同じ吹く楽器でもフルートとか。

吉田:フルートは難しい印象しかないですが、共鳴してるというのはあるかもしれません。自分の体が共鳴板のようになるような。

進藤:ああ、オペラ歌手とかそんな感じしますね。

吉田:知っているミュージシャンにも体全体から出ている人がいます。

進藤:体感的にもあるんですか。

吉田:うーん、でも、ある時からうまく鳴るようになったように思います。学生時代と比べると全然違います。

進藤:それってなんでしょう。筋肉?肺活量?鍛えたりしているんですか?

吉田:どうでしょう、私は特にはやっていないです。

進藤:でも毎日やっていれば肺活量とか鍛えられそうですね。

吉田:肺活量というより、どこにあてれば上手に音が出せるか、みたいな。私の先生で肺が小さい人がいるのですが、音は大きくて、肺活量は関係がないと言われたことがあります。

進藤:鳥は鳴き声が大きいけど関係あるのかな。

吉田:ああ!それはあるかもしれませんね。

進藤:当時と今とでは違いますか?

吉田:ある時からきちんと音が鳴るようになりました。ニューヨークに行ったばかりのころ、音が鳴っていないと言われて。それまでもいろんな人に言われてはいたんですが、そこで特に気にするようになって。

進藤:要するに楽器を使いこなすっていう事に近いような。

吉田:小手先でやっていたのが、もっと腰を据えてみたいな。19、20歳くらいの時でしょうか。そこからは安定していると思います。

進藤:(ノイズにも)上手いとかあるのですか。

吉田:適当なノイズはすぐにバレます。ただ、アブストラクトアートっていうんですか?あるじゃないですか。筆でえいっ!とやって完成のような。でも、それは基礎的なデッサンが上手いか、わかるのかなって。わからなかったりしますよね。

進藤:うーん。そうですね…作品の完成度っていうのはありますが。

吉田:子どもでもできるじゃない、みたいになってしまうんですよ。本当は吹けないでしょう、みたいな。でもある意味で吹けなくて良いと思うんです。必ずしも難しい伴奏やアドリブが出来なくても、本当にやりたいことができていれば。

進藤;ふーん、多分本質的なところなのでしょうね。

吉田;日本の芸大の事を友達に聞いたのですが、デッサンをまずは何千枚やらなければならないとか。音大もそうなんです。

進藤:ああ、基礎ができていないと、っていう。

吉田:日本ではずっとそう言われてきたけど、ニューヨークに行くとジャズスタンダードが基礎というわけでもないし、やりたいことがわかっているなら好きなことをやれ、と教えられた。日本だと基礎をやってから崩せみたいな。

進藤:私も石膏デッサンやりました。嫌いだったけど。今もそういう感情ありますか?

吉田:はい。

進藤:本場にいくと逆だったっていうのが面白いですね。

吉田:なんで生まれが日本で、英語も喋るわけでもないのにジャズをやるのか、ということを考えさせられました。本当に、生まれたからにはやるしかないみたいな、使命があるような人達がいる中で、ずっと基礎をやるのは苦行でしたが、それができないとノイズができないと思い込んでいました。一方で毎日、基礎を修行のように練習して研究する人もいます。

進藤:向き不向き、ありますね。

吉田:ヘタウマっていうのがあるじゃないですか。なんでも上手にできる人が、あえてやっている、というような。例えば、ピカソの初期の時代の作品を見ると、本当は上手く描けるんだぞ、っていうのが。そういう事ではなくて、極め方の方向の問題というか。

私の場合は、昔からノイズ音楽に触れる機会が多い環境で育ったので、自分にとって自然な事を追究している、と言っていきたいと思います。


・音楽について

進藤:ところで…音楽って(自己表現としての)エゴみたいなものなんでしょうか?どう思いますか?

吉田:私の場合はノイズという奏法について、誰かを楽しませる、というようにはやっていなくて。自己満足と言われることもありますが、それだけでもないと思っています。

進藤:お客さんもいるしね。

吉田:理解してほしいわけでも、わざと嫌われたいわけでもないのですが。

…これは私の師匠の言葉なんですが、「世界をよりよくするため」と言っているんです。自分のやったことによって、新しいものが生まれて感情が動かされる人がいたり。

あと、一番大事なのは仲間ですね。仲間が作った楽譜を面白がってくれたりする事がすごく大事。例えば、空知ツアーでは音楽の必要がないと思ったことがあるんです。ツアーの目的がその土地の人たちを知る事だから。友達に「じゃあ、極端な話、その(人とつながるための)ツールが音楽ではなくて、藁でも良いのか」と聞かれたのですが、

「え?あなたも藁持ってるんですか?私もですよ!良いですよね〜」とか言って知らない人と仲良くなれるのなら音楽でなくてもいいのかもしれません。コンサートを聴いてもらったり、一緒に演奏したりするのはつながるための手段でしかない。

進藤:一方で専門性、一方でそうではない形があるんですね。

吉田:両極な事かとは思います。仲間と音楽で追及する事と、音楽と関係ないところでどこまで繋がれるかというのと…

進藤:なるほど。結構色々わかってきた。全然わからない話は、ないです。すごくわかります、意味というか。

吉田:仲間と自分で楽しくやっているんですが、自己満足だけではないんです。ノイズも、現代音楽凄いだろ、っていう風にやっているわけでなく、素直な気持ちでやっているんです。

ここは叫ぶところでしょうというように。すごく嫌いな人に向けた曲のノイズとかはわかってもらえる(笑)。

進藤:すごく身近な事が曲になったりするんですね。家族の事もありますよね。そういうのって音楽を知らないっていう人でも共感できたりするのかも。

吉田:曲の説明したがらない人っているのですが、私は言って聞いてもらうのが良いと思う。亡くなった母のため曲とか、妹が旦那とサッカーやっていたとか、空知の空とか…そういう風にすると田舎のカフェでやってもおばさんから景色が浮かんだ、とか感想が返ってきたりする。

エピソードがある曲は言っていいんじゃないかと思う。

進藤:そういう個人の体験や身近な人に関する曲が多いですか?それともさっきのスコアみたいな遊び心からできる曲のほうが多い?

吉田:いろんなバランスでできています。気分もあるけど、かと言ってその日その日で、というわけでもない。

やっている間に作った時の感情がフラッシュバックしたりします。即興の要素も多いのでその日の気持ちも影響はある。

進藤:CDを3枚聴かせてもらったのですが、ソロは物語がある感じがしました。残りは規則的に聴こえたり、繰り返しがあるように思いました。この違いはどうですか。

吉田:ソロは一人でできるので自分の好きなストーリーが多いです。ピアノの入っているCDはピアニストの曲。もう1枚は他人の曲もあるし、個人的な感情を出しているというより、バンドの得意な事を考えて作ったりしました。ソロは個人的な感情が入りますが、バンドはどうしたら面白いかという視点になります。みんなで私の妹がテーマの曲をやってもね。まあ、やりますけど。

進藤:そうか、バンドの場合はみんなで作っているんですね。みんなソロでもできるんですか。

吉田:そういう人もいますし、組む人もいます。ソロは完全に自分でできるのでパーソナルなテーマでできます。

進藤:そういう意味では特殊ではありますね。


・スタジオにて

進藤:(サックスを見て)初めて見るかも、近くで。こんなに複雑なんですね。どうしてこんな風に発達したんでしょう。

吉田:壊れると自分では直せなくて。専門家でないと。進藤さんになぜサックスを選んだかとかメールで質問していただけましたけど、突き詰めて話せると面白そうですよね。またの機会にでも。

(サックスを構えて)リコーダーってやるじゃないですか指使い覚えてます?あれと同じなんですよ。(実演)

吉田:指を半分にしたりするじゃないですか。リコーダーより簡単なのはここを押したらオクターブ上がるんですよ。(実演)

進藤:へー、すごい。音の圧がありますね。面白い。

吉田:さっき言ったこの辺(小手先)だけで吹くのはこう。ちゃんと吹けって(音を鳴らす)いうのはこう。(実演)ただのドレミファソラシドも…(実演)

進藤:すごい!全然違う。

吉田:普通はこういう音じゃないですか。クラシックだったら(フレーズ)とか。ジャズだったら(フレーズ)とか。こんな感じ。これは英語喋っているみたいで。カタカナ英語みたいな感じ。棒吹きはこう。

進藤:うんうん。

吉田:全部同じニュアンス。例えば英語でアンアップルでも、本場の流暢なan appleみたいに音を飲むようにやると、こう。(フレーズ)

進藤:あ~。

吉田:でもこれはan appleのニセモノ(英語を母語としていない人の訛りがある英語のようなサックス鳴らし方)ですよ(笑)。

進藤:なるほど。そっか。

吉田:皆さんの思うサックスというと大体こんな感じですよね。(ルパン3世のテーマ)

進藤:すごくいろんなところ動くんですね。

吉田:細かいバネとかもいっぱいあってたまに調整に行きます。さて、一般的にはこんな音ですが、すごいいろんな音が出ます。例えば(濁った音)(1音でうならせる)(舌を使ったパーカッショブな音)(かじって鳴き声のような音)などが出せます。

クラシックではミストーンとされNGなのですが、私が教わったのは、こういう音が出せるというのは楽器のポテンシャルなんだから、コントロールできるようになれば表現の幅が広がると。

進藤:まだ発見されていない奏法もあるんですか。

吉田:あります。特殊奏法って世界中やっている人がいて大抵はわかるんですが、今のどうやってやったんだろうというのもあります。例えばさっきの濁った音は変なところを外すと鳴るのですが、そういう運指を研究して150種類見つけて本にした人もいます。

進藤:オタクですね。(笑)

吉田:こうやって、バラせるんですけど、(マウスピースで演奏&本体だけで演奏)。

進藤:NGがないんですね。楽器のポテンシャルを探る面白さもあると。

吉田:だから本当は四角と棒だけで書いちゃダメ。それで表現できるならそれでもいいわけですし。今みたいなノイズを組み合わせると…(演奏 不思議な音)

進藤:へえ、面白い。

吉田:ここでこれを繰り返そうとかやると、曲っぽくなったり。

進藤:そうか。こういうのが元にあってどうやってアレンジするかという。

楽器はこれだけなんですか。

吉田:アルトの他にソプラノサックスがあります。音色が全然違います。

進藤:飾り彫りが入っている。美しいですね。

吉田:このコ(アルト)も入っているんですよ。どうでもいいんですけど、昔のミュージシャンはメッキが剥がれてサビサビで。当時の先生のも使い込んで錆びていて。それがかっこよくて薬品で剥がそうかと思ったこともありますが、薬品はさすがに、と先生に止められて。最近やっと剥がれてきました。

(ソプラノサックスで犬神家の一族を演奏)こういうのも吹ける(笑)

進藤:(ソプラノサックスでも)ノイズをやることもあるんですか。

吉田:ソプラノは低い音が出ないので、倍音が出にくいんです。テナーだと高音が出ないのでアルトがちょうど良いって書いている人もいました。

進藤:今まで何回も買い替えたりしてるんですか。

吉田:いえ、そんなにお金があるわけではないので、初めてのサックスがこの5万円くらいの。社会人バンドに入った時に頼み込んで買ってもらったのが今のです。テナーもあったんですが、売ってしまいました。

進藤:やっぱりこれが肌に合うんですね。

吉田:子どものピアノワークショップもやるんですが、内部奏法って見たことあります?(ピアノに移動。内部を指ではじくなどして特殊な音を出す。)

進藤:そうか。ピアノでもこういう音があるんだ。

吉田:ピアニストにピアノがかわいそうって言われたり。サックスもかじるなんてできない、とか。

進藤:音楽をやっている人の方が分かり合えなかったりするんだ。

吉田:こうじゃなきゃいけないっていうことはないと思うんですよ。壊したりとかは違うけど、使えるところは使う。

進藤:ピアノでピアノ用の音楽つくることはあるんですか。

吉田:多分ピアノは弾いてもらうと思います。大した事なければ自分でも弾くことはありますが。

進藤:ピアノは曲を書くときに使うということとですが、ノートや鉛筆、ドローイングに近いんですかね。

吉田:ああ、和音が作りやすいですね。サックスだとわかりにくいですが、(和音を弾きながら)多分これなら次レ。みたいに起こしていく。パソコンの人もいるんですが、あまり使えなくて。

進藤:ああ、そう意味ではアナログですね。

吉田:でも難しいと両方で弾けないのでそこは想像しながら。

進藤:ああ、そうか。基本的に作曲は一人なんですか。

吉田:やっぱりこもってやることが多いから。グループで作曲をしたことはあるんですが、出てきたアイデアがまとまらない。頼むとしたらメロディーに対してどういうコードを付けるか、とか相談はあります。骨組みは自分で作ります。

進藤:作曲も大きく占めていますね。

吉田:そんなに早くできるわけ方ではないですが。

進藤:でも、重要なんですね。ありがとうございます。生で見るとやっぱり違いますね、当日が楽しみです。


吉田野乃子と進藤冬華、二人の生トークと生演奏が聴けるワンドリンクジャズカフェ「フリースタイル・ピクニック」

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